◯ 世界史に見られるランドパワーとシーパワーの戦略 VOL.2
江田島孔明
△ 土地支配と情報支配
更に重要な視点として、この土地にこだわるということは、陸上で防衛線を張ることに繋がり、人間の本性として、敵と距離を保つために、常に防衛線の前方展開の衝動に突き動かされ、結果として国家崩壊に至る例があまりに多いことである。
帝政期以降、欧州内陸部への拡大から破滅を招いた古代ローマ、アレキサンダー、元、ナチス・ドイツ、大日本帝国陸軍そしてソビエト・ロシア等、枚挙に暇がないというよりも、これがランドパワーの宿命であろう。現在のアメリカはシーパワーの本分を忘れ、このランドパワーの落ちた罠に嵌ろうとしている。
ランドパワー、シーパワー両者には、土地支配重視か情報に基づく交易重視かまたはその精神的な構造、マインドについて決定的な相違があることが分かる。地域的に両者が離れている場合利害は対立せず、むしろ相互補完関係となるが、同じ地域、国内で両者が対立した場合、妥協はなく、歴史上の紛争、諸事情もこの対立軸を通して読み解くと非常にわかりやすい。
大事な点は、往々にしてランドパワーはシーパワーを文化的に劣等と見るということである。これは、上記のように、シーパワーがランドパワーによって追い詰められ、その結果シーパワーになったという過程を見れば、分かるであろう。フランスのイギリスに対する、あるいは、中国、韓国の日本への文化的に劣等とみる見下した見方はこの視点を考えると分かる。
彼らの本音は、「陸では自分たちが勝った」ということである。ランドパワーとシーパワーでは、パラダイムが変わったことに、その閉鎖性ゆえ気づいていないのである。中世とは、農業生産力の優位が国力に結びついた。日本でも石高の大小がそのまま国力を表した。
このような観点からは土地や人口は多い方がいいのである。しかし近代はそうではなく、遠隔海上交易に必要なのは情報である。最新の情報を握れば巨万の富を掴めたのである。すなわち、土地支配(ハード)から情報支配(ソフト)にパラダイムシフトが起きたのだ。
ランドパワーはこのことに気づかないか、気づいても、安全保障上、コストをかけて土地支配を続行せざるを得ないのである。この差が両者の近代そして、現代の優劣を分けたのである。冷徹に考えると土地や人口の過多はむしろ維持コストが過大となり内政を圧迫し、政治的不安定要因でしかないのだ。中国やインドをその人口から経済大国と捉える向きはこの点を意図的に看過している。
△ 利害対立
注意するべきは、ランドパワー同士やシーパワー同士はそれぞれ土地支配、市場支配を巡って利害が対立するということである。第二次大戦における独ソ戦争はランドパワー同士の東欧支配を巡る対立であり、古代ローマとカルタゴは海外市場と地中海制海権を巡って必然的に利害が対立したのである。このような場合、殲滅戦になりがちである。近親憎悪とでもいうべきか。独ソ戦は捕虜を取らない、泥沼の死闘であったし、ポエニ戦争も最後はカルタゴは廃墟と化した上殲滅され、歴史から消えた。
しかし、シーパワーとランドパワーの対決は必然ではない。何故ならシーパワーは海上封鎖によりランドパワーを封じ込めることができるが、逆はあり得ないからである。つまり、シーパワーが制海権を保持するという前提でいえば、ランドパワーはシーパワーに手を出せないのである。
冷戦期のアメリカの世界戦略である封じ込め政策、又は古代ギリシャにおける、サラミス海戦後のアテネとペルシャの関係、さらに、イギリスが海軍力を駆使して、大陸欧州諸国のパワーバランスを図った勢力均衡などが例である。この観点から、アメリカも北朝鮮を封じ込めていけば、早晩瓦解するのであり、戦争に訴える必要はない。言い方を変えると、ランドパワーとシーパワーは陸と海にそれぞれ棲み分けることができるのであり、あえて対決する必然性はないというのは 歴史上の法則である。
例外は、同じ国内でランドパワーとシーパワーが対立した場合であり、妥協の余地のないデスマッチとなる。ここで日本が特殊な点は、上記のようにその形成過程において両者の影響を同じ程度受けている、世界的にみても稀な国なのであり、歴史を通じてある時点ではシーパワー、ある時点ではランドパワーという二つの間を振り子のようにゆれている点である。
私の見るところ、これは大陸からの距離が原因であろう。朝鮮半島のように大陸と地続きの地域が中国の華北政権といった大ランドパワーの影響から脱しきれず、小ランドパワーで終わってしまったことをみればよくわかるであろう。大陸と適当な距離をもった島国であり、かつ、黒潮により華南や南方とつながっていたことが幸いしたのである。
△ ランドパワーは歴史的にハートランドを目指す
「東欧を制するものはハートランドを制し、ハートランドを制するものは世界島を制し、世界島を制するものは世界を制す」・・・ハルフォード・マッキンダー(英、1861−1947)(注:ハートランド=ユーラシア大陸中央部、世界島=ユーラシア大陸)
洋の東西を問わず、ランドパワーはハートランド(大陸の中央部)を目指す本能をもつ。これは、西洋ではアレクサンダーやナポレオン、ヒトラーが例である。第一次世界大戦における、ドイツの3B政策もこれに含まれる。
東洋では中原といわれた華北平原の争奪を漢民族と北方騎馬民族が歴史的に行ってきたことが例である。三国志を読めば、いかにこの中原の支配が重要かわかる。
日本においてハートランドといえば、関が原であろう。壬申の乱、関が原の戦いがともに、ここを巡って争われたことは偶然ではない。関が原が日本のハートランドだからだ。
なぜ、彼らはハートランド支配に拘るのか?それは、海軍戦略を考慮に入れずランドパワーの理論のみで考えるならば、ハートランドの支配が死活的に重要だからだ。
ハートランドは陸上交通の要衝であり、この地域を敵対勢力に握られると周辺のランドパワーはその圧力にさらされ、生存が困難になる。ハートランドと地続きの地域に棲んでみないと、これは、理解できない。
しかし、ここに落とし穴がある。それは、一旦ハートランドを支配してしまうと今度は周辺地域が全て敵対勢力になり多正面作戦になるということだ。このため、ハートランドの長期間の支配に成功した例はない。ハートランドのSustainability(維持可能性)が限りなく低いことは歴史上数え切れない例で実証されている。
歴史的に見て、中国や中近東で政権、王朝の交代が激しい最大の理由はこれである。このような観点から、EU東方拡大、アメリカの中東戦争はともにハートランド支配権をかけて衝突することが確実であり、ともに失敗すると考える。ユーラシア大陸の歴史は、このハートランドを巡る闘争の歴史でもある。
要約しよう。「ハートランドを敵対勢力に握られたら生存できないランドパワーはハートランドの支配を目指す。しかし、一旦支配してしまうと、敵に囲まれ、崩壊する。」ということだ。すなわち、ハートランドを支配できても、できなくても、ランドパワーに生存は困難であり、安全保障コストが高くつく。経済発展ができない理由もそこにある。
例外は戦後の枠組みである冷戦だ。戦後の枠組みの冷戦期においては独仏や韓国といった本来のランドパワーが、このハートランドに手を出さずランドパワーから切り離され、シーパワーとして発展が可能であったのだ。
これは、むしろ、歴史的に見れば僥倖にすぎない。韓国軍の初代将軍(当時弱冠30歳)の白善ヨプ氏はこの価値観を持ってい た。すなわち、韓国はDMZ(軍事境界線)を海峡に見立て、シーパワーとして生きるために今まで多大 な犠牲を払ってきたのだと。そして日本、アメリカの海洋勢力 と結んだことで、「島国」として発展してきた。
独仏も同じように、鉄のカーテンを海峡にみたて、シーパワーとして発展してきたのだ。彼らは、冷戦崩壊後、その僥倖を忘れ、ランドパワーに回帰し、ハートランドを目指している。
△ シーパワーはリムランド支配を目指す
「リムランドを制するものはユーラシアを制し、ユーラシアを制するものは世界の運命を制す」・・・ニコラス・スパイクマン(オランダ系米国人 1893−1943)(注:リムランド=ランド・パワー(大陸勢力)とシー・パワー(海洋勢力)が接触している地域)
一方、シーパワーはリムランド(外延部)の支配、もしくは港の支配を目指す。港を支配し、制海権を握れば、ハートランドのランドパワーは上記の理由で自然に崩壊する。冷戦期のソ連が例である。封じ込め戦略はこのような合理的な戦略である。
興味深いのは、日本において近世を開いた織田信長だ。彼は当初関が原に近い岐阜を拠点にしてハートランド支配を目論んだ。しかし、おそらくはキリスト教宣教師の入れ知恵だろうが、琵琶湖畔の安土へと拠点を移す。最終的には大坂に拠点を移すことを考えていたようだ。(秀吉が実現した)
これはシーパワーの戦略である。シーパワーの観点から港の支配ができればハートランド支配は不要だということに気づいたのだ。
ソ連崩壊後、ランドパワーが弱体化し、均衡が崩れたことにより、シーパワーがその本分を忘れ、ランドパワーの聖地であるハートランドを侵していることが最大の失敗に繋がる。これこそが世界史の教訓だ。
今後の世界情勢を概観するに、アメリカ、EU、ロシア、中国といったランドパワー列強が中東やCIS諸国といったハートランドの支配権をかけて争う戦国時代が訪れる。この戦いに勝者は無い。不毛な消耗戦である。むしろ、諸国共倒れの危険がある。まさしく、世界規模でハートランドを争う三国志や春秋戦国時代の始まりだ。
△ 日本の立場
上記のような状況を考えるに、日本はアメリカに従ってこの戦いに参戦するのではなく、環太平洋連合を樹立し上記諸国の抗争を冷ややかに眺めつつ、豪州に権益を確保を目指すべきだ。そうすれば、おのずと道は開ける。
(Vol.2完)
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