◯ 世界史に見られるランドパワーとシーパワーの戦略 VOL.3
 江田島孔明

『見出し項目』
 EU東方拡大の現状、拡大によって生じる問題、EU東方拡大の背景、
 東独の西独への編入からの教訓、ロシアの独裁化、EUとの対立、
 問題の所在、東欧の地政学的位置付け、東欧の安定のため何が必要か、
 鍵を握る英国、シーパワーとしての自己規定、ローマ帝国の事例、
 まとめ。

 今回は、前号までで述べたランドパワーとシーパワー、ハートランドとリムランドについての理解を前提として、EUの東方拡大を考察してみる。
 EUの拡大25カ国体制について、世の識者はユーロの時代がくる、アメリカの次はEUだ、世界最大の市場出現といった好意的な論調が多い。しかし本当に問題はないのだろうか。

△ EU東方拡大の現状
・EUはエストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニア、マルタ、キプロスの10カ国(加盟候補は13国)に、2004年5月1日に同時加盟した。
・EUの東方拡大のねらいは、東西冷戦で分断された欧州の再統合、そして国際社会の発言力を高めることである。
・加盟候補国であるポーランドでは、経済において高度成長にあるにもかかわらず国民の世論調査ではEU加盟支持率は減少している。
・そのほかの候補国は世論調査の結果豊かな生活へのあこがれから加盟支持率は6割。
・EU内での昨年12月の世論調査では、EU拡大の支持率は51%、支持しないという割合は30%であった。
・今後はウクライナやトルコまでも加盟交渉予定

△ 拡大によって生じる問題
・農業補助金、財政負担問題→新加盟国は現加盟国と同じ割合の補助金を要求しているのに対し、現加盟国は「新加盟国には当初7年間は現加盟国の25%」と主張。
・拡大によって不法移民、低賃金労働者の大量流入か起こり、失業率はますます上がってしまう。
・新加盟国への財政負担や移民の流入など、現加盟国の国民負担が増える。
・移民増加による治安悪化。
・意思決定の遅れ
・EU内東西、南北問題発生
・地政学的紛争の惹起

△ EU東方拡大の背景
 1990年代半ばからドイツ企業は東方周辺国への直接投資を増加させてきた。生産コストが低く、近接した中欧諸国にまたがるネットワーク構築の動きは自動車や電機、物流などの広範な業種に広がりつつある。こうしたドイツ企業の東方シフトにフォローする形で在独日系企業もドイツを足場に徐々に中東欧への進出を図ってきている。
 EUの東方拡大に最も積極的だったのはドイツと言われている。中東欧諸国を統合欧州の単一市場に取り組むこととなれば、地理的にも言語的にも旧東独を介した歴史的、文化的、人的つながりの観点からも最も直接的な経済的恩恵を受けるのはドイツであることは疑いがない。
 2004年にはポーランド、チェコ、ハンガリーなどの中東欧諸国のEU加盟が実現の運びで、ドイツは拡大EUの中央に位置することになる。

△ 東独の西独への編入からの教訓
 EU東方拡大について、先行事例として東独の西独への編入がある。そこから得られる教訓とはなんであろうか。
 東西ドイツの統一後、旧東独地域の産業再生の遅れという構造問題も抱えるようになった。旧東独経済の産業基盤の脆弱化は、東西ドイツ統一時に西ドイツの通貨マルクを東ドイツ地域に流通させる際の交換比率が賃金、年金等について1対1と生産性に見合わない水準に設定されたことが原因である。旧東独地域の失業率は統一後上昇トレンドを辿り、現在でも20%という高水準にある。このように東西の統一に絡む問題がドイツ全体の失業率を高止まりさせ、財政事情を悪化させる一因となっているのである。
 90年代を通じてドイツの成長率はEU平均を下回っているが、旧東独に足を引っ張られていることは明らかだ。そして、旧東独には希望がなく、西への移住が進んでいる。旧東独は、道路、鉄道、通信など公共事業で整えられるインフラは飛躍的によくなったが、肝心の民間企業は来なかった。

<参考>
http://www.jetro.de/j/trend/trend20020801.htm(東独経済)
 このように、経済の観点からみれば、ドイツ統一は失敗であったことは明白である。ドイツ人は、経済的繁栄より、民族の統合、政治的安定を優先したというであろう。しかし、ヒトラーを例にとるまでもなく、経済的困窮は、民族問題や地域紛争の発生につながる事も又、歴史の教訓なのである。EU統合はこの点を真に検討したのであろうか?

△ ロシアの独裁化、EUとの対立
 ロシア大統領、全閣僚を電撃解任(日本経済新聞)
 【モスクワ=栢俊彦】プーチン・ロシア大統領は24日午後、予定外のテレビ演説で、カシヤノフ首相をはじめとする全閣僚の解任を電撃的に発表した。旧エリツィン大統領の側近グループを排除することで自らの権力基盤を一段と強化するとともに、3月14日の大統領選を待たずに2期目の国家運営に向けた強い意志を国内外に示す。
 同大統領は首相代行にフリステンコ副首相を任命。憲法の規定に従って二週間以内に新たな首相候補を指名し、下院の承認を求める。その他の閣僚は新首相が閣僚名簿を作成するまで任務にとどまる。
 プーチン大統領は内閣総辞職の理由を「大統領選後の政策に関する方針を明確に示すため」とし、自前の内閣を組織する狙いを明らかにした。
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EU、拡大めぐりロシアと対立(日本経済新聞)
 【ブリュッセル=刀祢館久雄】5月に予定する欧州連合(EU)の東方拡大を巡り、EUとロシアが対立している。中・東欧諸国との貿易関係が従来より不利になると懸念するロシアが、EU拡大に伴う新たな協力協定への署名を拒否しているためだ。EUは23日に開いた外相理事会で対応を協議。ロシアに改めて受け入れを迫る構えだが、打開のめどは立っていない。
 EUはロシアと1997年に政治・経済・通商関係を包括する「パートナーシップと協力協定」を発効させている。5月に中・東欧などの10カ国が加盟するのを受け、新たな文書に署名するようロシアに求めている。外相理で改めて無条件の受諾を呼び掛ける方針だ。ロシアは新規加盟国にEUの基準が適用されることで、関税率が上昇したり、安全基準が厳しくなったりしてロシア製品の輸出が阻まれると批判。EU側にリストを突き付けて対応を要求している。

△ 問題の所在
 以上の状況を要約すると、EU統合、ユーロ導入について、全てフランス主導でここまで来たが、拡大25カ国体制になると、ドイツの影響力、発言力が増し、戦後のフランスとの間で常にドイツが譲歩してきたような関係が維持できるかはなはだ疑問である。はっきりいえば、拡大EUはヒトラーが目指した大ドイツの再来になりかねない。
 そして、欧州は歴史的かつ地政学的にライン川の線、すなわち、ゲルマンとラテンが対立すると、かならず悲惨な結果を招いていた。そして、第一次大戦以降、東欧が原因でゲルマンとラテンさらにロシアが衝突するということを繰り返してきた。今回のEU東方拡大はこの轍を踏むことはないのか?EU東方拡大はロシアとの安全保障上の緊張を生まないか?更に米国との関係は悪化しないか?このような観点に立って、検討してみたい。

△ 東欧の地政学的位置付け
 東欧とは、地政学的にどのような位置づけになるであろうか。
 イギリスの地理学者マッキンダー(Halford Mackinder 1861-1947)は1904年に「歴史の地理的な展開軸(The Geographic Pivot of History)」という題名の講演で、マハンの海上権力論では陸地に関する要素が不充分であり、地球は大陸と海洋から成り立ち、その大陸の3分の2を占め、人口の8分の7が住んでいるユーラシア大陸を「世界島(World Island)」、世界島の中央部でシーパワーの力が及ばないユーラシア北部を「ハートランド(Heartland)」と名づけ、ハートランドの外側に2組の三日月型地帯(Crescent)を設定し、ハートランドの外側にあり海上権力の及ぶ大陸周辺の地域、すなわち西ヨーロッパ、インド、中国などを内側三日月型地帯(Inner MarginalCrescent)、その外方に海を隔てて点在するイギリス、日本、インドネシア、フィリピンなどを外側三日月型地帯(Outer or Insular crescent)と名付けた。そして、近代工業が発達すれば鉄道などによる交通網が発展し、ハートランドに蓄積されたランドパワーがシーパワーを駆逐し、やがてはシーパワーを圧倒するであろう。
 「東欧を制するものはハーランドを制し、ハーランドを制するものは世界島を制し、世界島を制するものは世界を制する」と主張した。このハートランド理論= 「東ヨーロッパを制するものは、ハートランドを制し、ハートランドを制するものは世界を制する」は、ハウスホーファー (1869-1946、ドイツ出身地政学者、ミュンヘン大学で地理学を講義)によりドイツ風のアレンジを加えられ完成(「国家は生きた組織体であり、必要なエネルギーを与え続けなければ死滅する。国家が生存発展に必要な資源を支配下に入れるのは成長する国家の正当な権利である」という)し、ナチス・ドイツの東欧、ロシアへの侵攻の指導理論となった。ゲルマン民族の生存圏を東方(東欧とソ連)に確立し、スラブ民族を奴隷にするということである。この理論は形を変え、日本にも導入され、満州国建設の指導理論となった。(満蒙は帝国の生命線)
 この構想をアジア全域に拡大したものが大東亜共栄圏である。正に、ランドパワー連合構想である。すなわち、西欧をユーラシア大陸西端の半島とみなし、この西欧をハートランドのランドパワー(フン族、トルコ、モンゴル、ソ連等)の圧力から守るには東欧が防波堤となり、安定していることが必要との理論である。これは、アジアを見れば、朝鮮半島と日本が西欧だとすれば東欧は北朝鮮から、満州に相当することになる。日本の近代はこの地域を安定させる苦闘の歴史であり、それは欧州の20世紀が東欧支配をめぐるゲルマンとスラブの歴史であったことと同じである。そして、東欧は常に、スラブ系民族とゲルマン系民族の争奪戦の主戦場となり、両者が国境を接してしまうと、必ず戦争に至ったという経緯がある。東欧を安定させるには、東欧のゲルマン、スラブ其の他少数民族を統合する政治権力が必要であるが、一次大戦にてハプスブルクを解体して後、この地域は民族と国境が一致したためしがなく、結果として大国の介入から紛争を生んできた。

△ 東欧の安定のため何が必要か
 逆に言えば、東欧を安定させ、そして全欧州を安定させるためには、「東欧をゲルマン、ロシア双方から切り離し、DMZ(非武装地帯)とする」ことが必須であることがわかる。そしてこれは、冷戦終了後、ソ連軍の東欧撤退以降、過去10年間継続してきたことである。まさに、ハプスブルク以来の東欧の安定が達成されたのだ。東欧は既にNATOに加盟し、今またEUに入ろうとしている。すなわち、ゲルマンの進出ラインがかっての第三帝国と同様、ロシア(ウクライナ、ベラルーシ)との国境に迫ってきたのだ。プーチン大統領は西側よりではあるが、最近、上記のようなKGB主導の独裁に回帰し、ランドパワーの本性を露にしだした。ロシアがいつまでも、対欧屈従外交を展開するかは予断をゆるさず、 さらに、通常兵力が弱体化したロシアは先制攻撃に核をもちいる軍事ドクトリンを採用している。保守派の動向に注意すべきであろう。過去の歴史は西欧の挑戦には必ず、ロシアは応えてきたことを物語る。
 更に、アメリカも、EUの大国化を懸念するあまり、東欧諸国を味方につけEUの内部分裂を誘おうとしている。この状況はまさに二度の世界大戦で現れた、東欧が原因となり、欧米露のパワーバランスが崩れていく様を彷彿とさせる。いわゆるソラナ・ドクトリンはEUがアメリカから離れて独自の外交、安全保障体系を構築し、ハートランドを目指すという決意表明だと考える。

△ 鍵を握る英国
 英国は島国であり、大陸欧州と一線を画し、シーパワーとして発展してきた。むしろ、英国が大陸欧州に関与したときは、百年戦争、二度の世界大戦ともに、国力を疲弊させ、没落を招いた。この点、日本が古代の白村江、秀吉の朝鮮出兵、近代の半島併合、満州事変、シナ事変が全て失敗だったことと同じである。英国の戦略家リデル・ハートはそのような視点から、「英国は、戦略の幅を狭められる利権を大陸に持つな」との名言を残した。すなわち、シーパワーとランドパワーは棲み分けなければいけないのである。
 英国は今後ユーロ導入し、崩壊が自明なEUの一部となるのであろうか?私は英国こそが、環太平洋連合の主要パワートナーとして、日本と豪州や、NZ、シンガポールやカナダそしてアメリカといった旧英連邦の各国を仲立ちし、環太平洋連合を樹立することができ、海洋国家として大陸国家と距離を置き、自立の道を歩むべきと考える。私は、中東戦争の継続により、アメリカは決定的に衰退し、世界の海洋覇権を失うと思う。そうなった場合、日英豪が軸となり環太平洋連合を構築し、世界の海の支配と海洋資源開発をする必要がある。

△シーパワーとしての自己規定
 大英帝国はその最盛期にも欧州内部に進出しなかった。シーパワーとしての自己規定ができていたからだしかし、独仏は戦後、鉄のカーテンを海峡とし、シーパワーの島国として経済発展できた僥倖を忘れ冷戦崩壊後、ランドパワーに回帰し、ハートランドを目指している。英国との対立は決定的になるだろう。ブレアは欧州憲法を国民投票にかけるといっている。これは批准しないという意味だ。ランドパワー化しハートランドを目指すEUと袂を分つであろう。
 一方、大日本帝国の朝鮮半島および大陸経営はコストがかかり、中ロ米との対立を招き、破局の根源となったことを忘れてはならない。シーパワーの自己規定ができなかったためだ。戦後日本の発展はこれら大陸部における植民地、占領地といった負債を一掃したところから始まったのだ。日本は敗戦というハードランディングにより、強制的に海外植民地のリストラができた。半島や満州などは、利益をもたらすより持ち出しが多くかつ、安全保障上の問題も惹起したため、当の昔に不良債権化していたのだ。

△ローマ帝国の事例
 内陸部への展開について、先行事例としてローマを見てみる。
 ローマ帝国のカエサルに端を発する欧州内陸部への拡大ローマはカルタゴを倒し、地中海の制海権を握った。そのままエジプトを経由して東方との交易に活路を見出す、シーパワーとしての行き方もあったように思えるがカエサル以降、欧州内陸部への展開、すなわちランドパワーとしての生き方を選択する。
 カエサルのガリア戦役はローマの安全保障上の必要である以上に、「カエサルの選挙活動」だという見方がある。実際、彼はこの戦役を通じて蓄財しており、ポンペイウスとの内乱を経て、終身独裁官になった。
 すなわち、権力を集中させるために、外征と戦勝が必要との見方である。
さらに、「ローマその後300年続く」との主張があるが、実質的には5賢帝の末期頃(2世紀末)から各地での反乱が始まり、ゲルマン人を始め属州からの流入民を巻き込んでの軍人皇帝の動乱時代を迎える。背後に212年、カラカラ帝がアントニヌス勅令で市民権(市民権を与えたのはそうしないと属州を抑えきれないほどローマの支配が緩んでいた証拠)を全属州に拡大したため、ガリア、ゲルマニアその他からの人の流入や蜂起があった。
 私はこの212年こそが、実質的にローマの終わりではないかとさえ思っている。その最大の理由はゲルマン人をはじめ、蛮族の流入だ。
 結果として首都をコンスタンチヌスに移さざるを得ないとこまで追い込まれた。 同じ理由で、ダルマティア(現ユーゴ)やダキア(現ルーマニア)などにも拡大すべきで無かったと考える。
 ブリタニア(現英国)についてはガリアをとるため、必要上とったもの。木材の供給源として。 あるいは、ガリアの後背地を抑えるために。大した産業も無いブリタニア駐留は明らかにコストわれし、赤字だったと考える。
 要するに、ガリア戦役は250年後のローマの衰退の引き金を引いたと考える。ガリア戦役とその後のゲルマニア、ダルマティア、ダキア等への侵攻がなければ、蛮族への市民権拡大から人の流入もなく、ローマの東西分割もなかったように思えるし、延命できたのではということ。これは、旧ソ連が崩壊していく過程と非常に似ている。ランドパワー崩壊のあるパターンに嵌ったのだ。

 この問題は、現在の世界情勢に通じる命題を含んでいる。つまり、戦前の日本の大陸政策、ナチスの東方政策、EUの東欧拡大、そして現在のアメリカの中東戦争、中国の内陸部支配はすべて、「大陸内陸部への展開」なのだがそれがどういう結果をもたらすかの最初の例がガリア戦役だ。これによってローマがどう変質したか(最大の問題は蛮族の流入に歯止めがかからなくなり、彼らに実権を奪われたこと)を見極めることは今後の世界情勢を読み解く鍵なのだ。私は全て失敗すると思っている。

△まとめ
 日本の戦前の半島経営が在日朝鮮人の問題を生み欧州の植民地支配は移民問題を生み、アメリカの西海岸支配はヒスパニック系住民の大量流入を生んだ。アメリカは21世紀にはヒスパニック国家になるだろう。
 このようにランドパワーを支配すると、短期的にはうまくいっても、やがては彼らに国を乗っ取られる。最初の例が古代ローマの拡大だ。EU拡大も同じ轍を踏むだろう。EU拡大をみてもわかるが、ランドパワーは土地や人口の増大、ハートランド志向を本能とする。EUは近代そして現代の価値が情報支配にあることを忘れ、ランドパワーの落ちた罠におちることが明白だ。
 重要な点として、このような地政学的対立の最前線である東欧を長期間支配した帝国はかって存在したためしがない。EUはその最初の例になれるだろうか。甚だ疑問である。このように考えると、マッキンダー、あるいはハウスホーファー理論の実践である、EUやNATOの東方(ハートランド)拡大は失敗し、EUそのものの瓦解につながると考える。このような懸念は実は欧州人にとって、非常に根強いことを指摘しておきたい。単なる企業ニーズの観点から安い人件費や市場だけをめざし、安保や地政学的考察を抜きにしてハートランドへの展開をすると失敗するのは絶対に間違いない。内陸部に展開することに伴う、安全保障コスト、リスク、インフラ整備コスト、移動、輸送コスト更に重要な点として、人の流入にともなう民族問題発生のコスト、リスクを全く勘案していないからである。
 このように考えると、欧州の問題は、そのまま東アジアの映し鏡であることがわかる。東欧は北朝鮮とおなじく、シーパワーとランドパワーの間のバッファー(緩衝地帯)である。北朝鮮の消滅も時間の問題だし、そうなった場合、在韓米軍撤退後のアジア情勢はNATO解体後の欧州情勢とパラレルに考察できるであろう。
 ただ、私は、アメリカが全面的に欧州から撤退するとは考えない。東欧の拠点に米軍基地を置き、東欧を背後から操り、EUを内部崩壊させつつ、ロシアを牽制するようになると思う。要は独VS仏VS米VS露の多元的争いになる。まさにこれは二度の世界大戦のパターン再現である。それこそが真の危機なのだ。
 アメリカは中東での長期戦を目論んでいる。そしてそれは確実にアメリカを衰退させるのだが、欧州や東欧の基地は中東派遣軍のバックヤード、補給、後方支援、そしてEUとロシアを分断するために必要である。駐留兵力は削減するが、あくまで欧州に打ち込んだアメリカの楔なのだ。
 ここで注意しなければならない点として、90年代から現在にいたるまで、世界を席捲した「グローバリズム」は世界を同質的なものと見做し、一つの価値基準で統合できると考えた点に根本的問題がある。アメリカ人の世界史に対する無知が根底にあると思えるのだが、国連をはじめとする国際機関が実効性を有しない点についても同じことが言え、世界は均一ではなく、ランドパワー、シーパワーの観点から国家、民族を分類し、その域内での価値基準はそれぞれ異なるのである。そして両者の関与は「必要最小限」に留め、棲み分けなければ不幸な結果を招く、というのが聖書、古史古伝の時代から現在にいたるまでの人類史の鉄則なのだ。グローバリズムのご本尊のシーパワーアメリカがこの鉄則を破り、サウジアラビアへの軍事駐留以来、ランドパワーたるイスラム諸国からの人の流入、攻撃に右往左往しているのはこのことを如実に物語る。
 今後は、東欧やハートランドといったランドパワーが原因となり、欧米露のパワーバランスが崩れていく様(戦国時代の到来)を注視していきたい。真に世界を制覇しようとすればリムランドを抑え、ハートランドに手をださないことが肝要だ。これは冷戦で実証されている。  以上

△ 参考
http://www.fureai.or.jp/~gogatsu/syoseki-tiseigaku.htm
(地政学 アメリカの世界戦略地図奥山真司 著)
http://tanakanews.com/blog/0401311438.htm
中東に勢力を伸ばしたいヨーロッパ 田中宇
<「東方拡大」はEUにとって大きな挑戦『世界週報』 Vol.84,No.5,2003.2.11>
「ドイツのある新聞は書いている。「2030年には今よりも大きな欧州になっているのか、それとも欧州共同体はメンバーの利害の違いの結果として分解してしまうのか、我々には分からない。」「不満な者たちを黙らせるための金はもうなく、政治はプレゼントをばらまくことはできない。しかし、自分のメンバーに利益を与えることのできない欧州は分解するだろう。その時我々の孫たちは、2002年12月13日について、それは終わりの始まりだった、と教科書で学ぶことになるだろう」、と(ベルリナー ・ ツァイトゥング)。」
http://web.iss.u-tokyo.ac.jp/~komorida/Copenhagen.htm
<両大戦間期の東欧の問題点>
http://www.h3.dion.ne.jp/~jtpage/cy/yugo/senkanee.htm
 (Vol.3完)


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