
◯ 世界史に見られるランドパワーとシーパワーの戦略 VOL8
江田島孔明
メルマガライター田中宇氏の下記記事についての私見を述べたい。
△ 新冊封体制の出現 (6月15日「アジアから出て行くアメリカ」から抜粋)
(田中氏メルマガ引用開始)
在韓米軍の縮小は、アメリカがアジアから撤退する兆候などではなく、北朝鮮に先制攻撃する前兆だという見方や、アメリカの軍事力はもはや多数の地上軍を必要としないほど高度なので、兵力縮小は無駄の削減にすぎない、といった見方もある。だが、これらの見方はおそらく間違いである。
先週すでに書いたように、在韓米軍の縮小が決まるとともに、韓国と北朝鮮とは急速に緊張緩和を進め、敵対をやめて親密化する方向へと動いている。北朝鮮側は早くも、韓国政界内で北朝鮮に融和的な政策を掲げる政党に接近する姿勢を見せており、政治的に韓国を揺るがそうとする作戦を開始している。南北の主戦場は、むき出しの軍事的敵対から、政治的な駆け引きや謀略の世界に移転し始めている。
http://www.expatica.com/source/site_article.asp?subchannel_id=52&story_id=8291
朝鮮半島は中国の権威のもとに安定する方向に動き出している。明や清の時代にあった中国中心の外交秩序である「冊封体制」に似たものが、朝鮮半島に再現されつつある。この新体制が確立した後、アメリカが北朝鮮を攻撃しようとすると、北朝鮮だけでなく韓国と中国をも敵に回すことになる。
大胆な仮説として「アメリカはもはや、北朝鮮・中国・韓国を全部仮想敵と考え、それに対抗してアメリカ・日本・台湾・オーストラリアあたりが軍事同盟を強化する」という予測も見たことがあるが、これも現実を無視している。アメリカは昨年、中国をG8に招いたり、人民元のドルリンクを外させてアジア通貨統合を促進しようとしたり、台湾に圧力をかけて独立志向の住民投票を見直させたりして、中国を重視する政策をとり続けている。
http://tanakanews.com/e0217dollar.htm
韓国と中国にはアメリカの投資がたくさん入っており、アメリカとしては敵に回すことができない。在韓米軍の縮小を決めた時点で、アメリカは新冊封体制の出現を容認したことになり、その分アジアでの自国の覇権を縮小させる決断をしていたことになる。
(田中氏メルマガ引用終了)
△ 朝鮮半島と日本の戦略的意味の違い
田中氏は、在韓米軍の撤退をもって、アジアから米軍がいなくなり、中国中心の新冊封体制が成立し、日本もその中に入れという主張だろうが、戦略地政学の立場から、朝鮮半島(ランドパワー)と日本(シーパワー)は全く位置付けが異なることを指摘したい。
実際に私が米海軍関係者に聞いた話だがアメリカの戦略は、
”日本:韓国+北朝鮮+中国”の潜在能力を”10:1”の比率で見ている。なぜなら、アメリカは日本とも、中朝とも戦争した。その際のB29の撃墜数が、日本は500機で中朝はたった40機だったからだ。
この事実をもって、アメリカは両者の潜在力を測っている。ちなみに、このB29撃墜数は戦後長らく、日本国民には極秘とされた。理由は、日本人に安保で対米依存をさせ、精神的に自立できないようするため、日本は弱いと思わせる必要があったためだ。
資本家は中国を重視しているが、アメリカ軍は日本と組んでおけば、中朝韓など、物の数ではないと考えている。アメリカ軍関係者によれば、朝鮮半島は防衛する価値は無いとのこと。私もそう考える。資源も市場もない。
地政学的に見た場合、半島は大陸のランドパワーの影響を直接受け、しかも国境線の防衛のために多大な陸軍を整備、維持するコストがかかり、かつ資源や市場にも恵まれない。よって、シーパワーは効率の観点から、防衛線を海上に置くべきというのは歴史を貫く鉄則だと考える。例として、アメリカは二度の世界大戦から冷戦を通じて、イギリスと欧州大陸の間のドーバーに防衛線を置いた。
これは、冷戦期のアメリカの戦略を見れば分かる。冷戦とは欧州で戦われた。欧州はユーラシア大陸から突き出た半島といえる。東欧が北朝鮮で仏独は韓国に、英国は日本に相当する。
もし東欧から、ソ連およびワルシャワ条約機構の機甲師団が西独に進出してきたら、西独奥地に戦車部隊を引き込んで戦線が延びきった時点で反撃する。
万一通常戦力による反撃が不首尾に終わった場合、西独、フランスを見捨てて限定核攻撃(中短距離核)でワルシャワ条約軍、及び東欧を攻撃し、反撃にソ連はSS20(中距離核)を仏独に打ち込むということである。
どちらに転んでも、アメリカは仏独といった大陸国家を守ろうとしていた訳ではないのである。仏独もそれは十分承知しており、フランスのNATO脱退時のドゴールの有名な言葉「アメリカ人はニューヨークを犠牲にしてもパリを守るわけはない」に繋がり、西独はGSG9という特殊部隊を結成し、もし、西独駐留米陸軍が西独政府の許可なく、パーシング(短距離核)を発射しようとしたら、突入して阻止する使命を帯びていたのである。
この、独仏を犠牲にして、イギリスを守るというのが、冷戦期、アメリカの戦略であり、リムランドの重要性を物語る。パーシングがイギリスではなく、西独に配備された真の理由をお分かりいただけたであろうか。冷戦といっても単純ではないのである。
このことは、近い将来、極東有事の際、島国の日本を防衛線にして、韓国を見捨てる可能性を示す。在韓米軍撤退はこの文脈で考えるべきである。アメリカの世界戦略を考えた場合、韓半島を維持するのに、3万5千の陸軍を配備するだけの価値がないという判断から在韓米軍を縮小、撤退するだけの話だ。韓国に関しては在韓米軍の1/3である一万二千五百人の撤退を決定し、ソウルや38度線の防衛をアメリカは放棄しているのは明かである。しかし、アメリカは韓国防衛を見捨てる一方で、日本に関しては米軍の前方展開及び兵站・中継ハブ機能として同盟を維持している。
(参考)太田述正コラムNo.361 第二回小泉・金会談について
(その3) 米国の韓国放棄
http://www.ohtan.net/column/200405/20040526.html#0
「米地上部隊の軽量化と機動性の向上によって、特定の前方地域に地上部隊を配備しておく必要性は少なくなった、ということは事実ですが、日本(沖縄)から地上部隊である海兵隊・・沖縄にいなければならない必然性は全くない拙著「防衛庁再生宣言」80〜83頁参照)・・の撤退が計画されているという話は聞こえてきません。韓国だけから米地上部隊が大幅に撤退するということは、米国は北東アジアにおける同盟国として、米軍の前方展開及び兵站・中継ハブとして機能を担っているところの「親米」日本を選択し、反米韓国は見限り放棄したということだ、と私は考えているのです。」
在韓米軍はあくまで対北朝鮮用の陸軍であり、世界戦略上は大した意味を持たないし、中東で兵力不足をきたしている以上、当然の措置と考える。朝鮮半島は本来、アメリカの防衛ラインに入っていなかったのだ。
△ 在日米軍
在日米軍は在韓米軍と本質的に意味が異なる。横須賀、佐世保を核にする在日米海軍基地の存在意義はあくまで、アメリカがアジア全域、更には米国の国家戦略上最重要な中東地域への戦力投射能力を担保する中継基地なのである。
ここは重要である。在日米軍の兵力構成を見ればわかるが、日本本土防衛を担うはずの米陸軍は存在せず、空軍、海軍、海兵隊なのである。いわば槍を置いているのであり、盾は自衛隊が担うのである。この点が在韓米軍と根本的に異なる。
更に重要な点として、日本の技術と資本がアメリカの世界戦略上必須であることを考えると、在日米軍基地の削減はありえると思うが、中東を重視する以上、全面撤退はありえないと考える。
田中氏はアメリカが韓国を手放したことをもって、アジアから米軍がいなくなるという結論を出しているが、的外れもいいとこだ。
台湾の独立志向の住民投票へのアメリカの圧力は、独立宣言で緊張が高まることを恐れただけで、アメリカとしては、今は中東で手が回らないので、止めてくれという意味だ。
アメリカが中東を重視する以上、東シナ海や南シナ海の制海権確保は必須だ。台湾や日本を失うと、中東への戦力投射能力が失われ、結局は、中東を失うことになるからだ。これは、絶対に承服できない。要するに、中東が落ち着くまで、中国には甘い顔をするというだけの話だ。
「アメリカが北朝鮮を攻撃しようとすると、北朝鮮だけでなく韓国と中国をも敵に回すことになる。」とのことだが、戦略重心を中東に移したアメリカは、北朝鮮と韓国をセットで中国に譲ったのだ。であれば、何故北を攻撃するという話がでるのか理解に苦しむ。
既に死に体の北を攻撃しても、何のメリットもない。六カ国協議もこの文脈で理解すべき。つまり、アメリカは六カ国協議を本気で進展させるつもりはない。
△ 日本の英国化
田中氏はアメリカがアジアからいなくなり、その後平和な新冊封体制(冊封体制とは武力を伴わない朝貢によってもたらされる関係。この関係に入っていた琉球王国は武力を持っていなかった)が樹立されるとするが、現実は逆で、在日米軍と自衛隊の一体化が急速に進み、日本の英国化を図るとともに、アジア諸国は急激な軍拡を図っている。米軍が中東にシフトし、パワーバランスの空白を埋めるためだ。
<参考> JOG Wing 国際派日本人の情報ファイル
海洋国家日本の21世紀地政学戦略(17)
△ 冷戦後の米欧の枠組みの変容(VOL.7)
http://www.melma.com/mag/56/m00000256/a00000856.html
1)在韓米軍の再編
アメリカ太平洋軍(US Pacific Command;USPACOM)概要と編成は以下参照
http://www.pacom.mil/about/pacom.shtml
−向こう3年間110億ドルを投資して在韓米軍近代化を図る
−兵力を約3万7000人のうち、1万2500人削減
−陸軍第二師団と龍山基地司令部のソウル以南への撤退(烏山基地、平沢基地への統合)
−パトリオットPAC3導入
−日本海へのイージス艦の配備
−無人偵察機(UAV)プレデター導入
−迅速機動旅団(SBCT)配備。装輪式装甲戦闘車(LAV)配備
−アパッチAH−64D対戦車ヘリ部隊の強化
2)韓国軍の自主防衛力強化
−国防費は13%増。国内総生産(GDP)比で今年の2・8%から2・9%に上昇(21兆4752億ウォン(約2兆1400億円)
−空中警戒管制機(AWACS)導入事業
−対空ミサイル誘導武器(SAM−X)
−戦力投資費を16%増の7兆3003億ウォン(約七千億円)
−海空戦力の大幅強化: イージスシステム駆逐艦導入、ストライクイーグル(F15-K)、新型潜水艦(原子力潜水艦の可能性もあり)、1万3千トンクラス揚陸強襲艦(ヘリ空母)導入など。
3)在日米軍の再編
−米陸軍第1軍団司令部(米ワシントン州)を米軍座間基地(神奈川県)へ移転
−米海軍太平洋艦隊哨戒偵察部隊司令部(米ハワイ州)を米軍三沢基地(青森県)へ移転
−将来的に横須賀に原子力空母配備(2008年キティーホークが退役予定)とのファーゴ第7艦隊司令官コメント
−航空自衛隊航空総隊司令部(東京都府中市)を米軍横田基地(東京都)へ移転
−米本土への大陸間弾道弾(ICBM)の探知・追尾用の「GBRレーダー」の日本への配備。(日本海へ配備予定のイージス艦のレーダー情報とともにデータを米本土の迎撃ミサイル発射管制システムに送信する)
−(在日米軍ではないが)グアム島のアンダーセン空軍基地にステルス爆撃機B2スピリット、無人偵察機グローバルホーク、空中給油機などの常駐を検討
4)自衛隊の強化
−ミサイル防衛: パトリオットPAC3導入と新型レーダーの配備、イージス艦にSM3の導入、MD用の地上レーダー配備「FPS−XX」08年度から順次配備
−自衛隊版RMAの実施: AWACS、空中給油機導入、JDAM(GPS誘導爆弾)導入し支援戦闘機F2へ搭載
−航空自衛隊航空総隊司令部(東京都府中市)を米軍横田基地(東京都)へ移転(航空自衛隊の指揮権がアメリカ空軍の傘下に編入されて行く)
−海上制圧能力の向上: 哨戒機PX開発、新DDH(ヘリ空母)導入、大型輸送補給艦の導入
5)台湾軍の強化
−パトリオットミサイルPAC3配備(弾道ミサイル迎撃能力あり)
−弾道ミサイル防衛にも対応可能な超高周波の早期警戒レーダー最大2基を米国が供与
−キッド級ミサイル駆逐艦供与、ディーゼル推進潜水艦の供与
これだけを見ても、田中氏の言う「冊封体制」が、いかに現実を無視した議論か、お分かりいただけるであろう。
△ 中国バブル
「韓国と中国にはアメリカの投資がたくさん入っており、アメリカとしては敵に回すことができない」とのことだが、人類史上最大と思われる中国バブルの破裂が間近であり、その前に外資は撤退するところも出てくるということをどうして無視するのか疑問だ。
寧ろアメリカの金融資本は中国のバブル崩壊とその後に起こる中国崩壊を待ち構えているとみるべきだ。
(参考)モルガンスタンレー「グローバルマクロ経済レポート」
http://www.morganstanley.co.jp/securities/jef/wib/040412/doc15.html
「中国で進行しているのは、筆者が思うに、巨大なピラミッド・ゲームである。かつて上海がそうだったように、地方政府は、地価が上昇するので債務を返済できるだろうと期待して、都市インフラを建設するために土地を担保に巨額の資金を借り入れている。
しかし、上海モデルはどこでも通用するわけではない。上海は、香港と台湾の不動産投資家によって救済された。筆者が思うに、上海だけでも香港と台湾には手に余るというのに、他の多くの都市が同じ道を辿ることがどうしてできようか。」
(参考)「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成16年(2004)6月17日(木曜日)通巻 第851号
http://www.melma.com/mag/06/m00045206/a00000659.html
「毎月発表される中国の外貨準備高。二ヶ月遅延している。日本、シンガポール、香港、印度などの中央銀行はすでに5月の集計を公表しているのに中国は3月公表分のまま、次の発表を見送っているのだ。異常事態が発生していると推測される。年末から年始にかけて中国は外貨準備から中国建設銀行と中国銀行の不良債権処理のために公的資金を注入した。その額たるや450億ドルだった。
他方、中国から海外へ投資された金額も300億ドルを超えたとの発表があった。(中略) 国際金融筋に流れるシナリオはあまたあるが、最大にして第一の可能性は「海外への資本逃避」だ。不動産ブームが金融抑制によって去りつつあり、投機筋がカネを引き上げているのではないかとする疑念は払底しきれない。投機家にとって絶好のカジノだった中国が突如魅力を失えばカネはすぐさま移動を開始する。」
韓国についても、アメリカ資本は韓国はもはや見捨てているのは明白だ。既に、韓国への海外からの直接投資は1999年には106億ドルだったのが2003年には何と12億ドル(見込み)へと10分の1に激減し、カントリーリスクは大幅に悪化している。もはやアメリカも国際資本も韓国経済を見殺しにする体勢に入っている。
(参考)太田述正コラムNo.273 韓国の危機
http://www.ohtan.net/column/200402/20040228.html#0
「ロンドンの世界市場調査センターは昨年12月、韓国のカントリーリスクを前年の2.25から2.5に引き上げた(最低が1、最もリスクが高い国は5)。海外から韓国への直接投資が1999年には106億ドルだったのに、2003年は12億ドル(見込み)へと10分の1に激減したのは当然です。」
しかし、日本企業は、下記に見られるごとく、バブル崩壊直前に進出を加速し、ババを引かされようとしている。対中進出を煽っている評論家はアメリカの指示でそうしているのだろう。確信犯だ。
日本企業の対中投資: http://news.searchina.ne.jp/topic/250.html
△ 日本は新冊封体制に入るべきか
田中氏は、日本も冊封体制に入り、中国を宗主国と仰げと言いたいようだが、GDPや財政規模で日本の数分の一(数字が不正確で実際の規模は不明、中国は正確な人口統計すらない)しかない、構造的問題点と日本の数十倍の不良債権の塊のような国にどうして臣従したいのだろうか。
(参考)さくら総合研究所 副主任研究員 孟芳
”債務の株式化からみる中国の国有企業改革”
http://www.jri.co.jp/research/pacific/monthly/2000/200010/AM200010chinapubcorp.html00
「中国では、不良債権の統計が公開されていないため、正確なデータを把握することができない。外国では、中国の不良債権がすでに貸出総額の20〜40%に達したと推測している。これをもとにすると、99年、金融機関の貸出総額(9兆3,700億人民元)の内、不良債権総額は1兆8,740億人民元〜3兆7,480億人民元と推定することができる。」
過去の私のコラムをご覧いただければ、日本がランドパワーと組んではいけない理由が分かると思う。より根本的には、聖徳太子や北条時宗のおかげで日本はランドパワーと縁を切って、日本となれたわけで、戦後の発展も大陸と縁を切れたから達成できたのだ。日本史を否定しようとするその姿勢は全く理解できない。
http://backno.mag2.com/reader/Back?id=0000091303
http://backno.mag2.com/reader/Back?id=0000091303
重要な点として、冊封体制はシナ王朝が財政的に豊かで、周辺国が朝貢した際の貢物に数倍するお土産をくれることで成り立っていた。日本との関係でこのようなことがありえるわけがない。ODAや借款を全て返済してから冊封体制という言葉を使うべきであろう。
△ 中国に対する幻想
重要な点として、中国に対してアメリカや日本の一部には、相当の思い込みや幻想がある。アメリカは建国以来の理念(Manifest Destiny)として西方向への進行は神の恩寵、意思と考えており、中国大陸はその究極的な目標である。
ペリー来航もの目的も、太平洋戦争の原因も中国大陸であったことを忘れてはいけない。付言するならば、アメリカは自らがシーパワーであり、中国がランドパワーであることに気づいていない。
マインドが根本的に相違し、19世紀から現代にいたるまで、アメリカはパールバックの「大地」に描かれた中国に幻想を抱き過剰な支援をし、全て裏切られているのである。歴史が無いので、中国5千年の歴史という宣伝に弱いのだろう。
日本においても、江戸期において、朱子学が知識人の教養とされていた名残で、中国を崇める風潮が特にエリート階級に根強い。現実の中国の姿を直視せよといいたい。「冊封」などという時代錯誤の用語を用いる田中氏もこの中に属すのだろう。中国事大主義者は、「白髪三千丈」という言葉の意味を考えてもらいたいものだ。
アメリカは、蒋介石を支援した結果が、朝鮮戦争での共産中国の軍事介入だったことを忘れるべきではない。アメリカがこのシーパワーとランドパワーは相互不干渉を貫くべしとする鉄則に気づくなら、アメリカにとっての戦略的パートナーは日本と台湾であることが容易に理解されるのであるが。
付言するが、中国との共同体を主張する方は、万一、そのようなものができ、意思決定手続きが人口比例の多数決になった場合のことを想像してもらいたい。金だけ出させられ、犯罪者を送り込まれ、政治的主導権は間違いなく中国に握られる。
△ 「文明の衝突」と米中衝突
サミュエル・ハンチントンは、世界を中華文明、日本文明、ヒンドゥー文明、イスラム文明、西欧文明、ロシア正教会、ラテンアメリカ文明、アフリカの8つに分類する。
そして世界に「普遍的な文明」が生れつつあるという考えに反論し、西欧のリベラルな民主主義を普遍的なものとするのは西欧の考え方であって、他の文明国から見ればそれは帝国主義とうつるという。
東アジアの経済成長とイスラムの人口急増によって、中国文明とイスラム文明の勢力が拡大し、「儒教・イスラムコネクション」を形成し西欧に敵対する。こうして、今後の世界は「西欧対非西欧」という対立の構造になるという主張だ。
冷戦後のアメリカの世界戦略の基底には、この認識があると思う。よって、イスラムの次は中国をターゲットにするのは既定路線。その前に稼げる間は稼がせてもらうというだけのこと。
△ 米中の利害衝突
私は、米中の衝突は台湾海峡ではなく、中東で起きると見ている。圧倒的に優位な日米海空軍を敵に回して台湾を攻めることをするほど馬鹿ではないだろう。
むしろ、米中の利害は、資源、エネルギーを巡って衝突する。中国が原油の輸入大国となり、中東原油利権を欲している(60%を中東に依存)以上、米中の利害衝突は確実に起きる。問題はそれがいつかということだけだ。
更に重大な問題として、中国が有人宇宙飛行を実現させたということだ。これはICBMの実用化を意味する。アメリカが最も恐れるのは、中国の弾道ミサイルの中東諸国、イスラム原理勢力への売込みだ。
既に流出している核兵器と弾道ミサイルが組み合わされば、世界のパワーバランスは大きく崩れる。イラク戦争の理由の一つはこの阻止だったと考えられる。
最大の焦点は中露EU間に反米の軍事同盟が結ばれるかどうかだ。中東情勢の推移を見守っていくしかない。このランドパワー枢軸が軍事同盟を結び、中東を舞台にアメリカと対抗した場合、真の危機が始まる。
下記の上海協力機構が対米軍事同盟に変容し、EUの対中武器輸出解禁が現実化した場合、第一次大戦の再現にならないことを祈るばかりだ。
軍事協力が深部へと発展する上海協力機構: 合同軍事演習は上海協力機構が軍事グループになることを意味せず、その根本的なねらいは地域の平和と安定を守ることにある。
http://www.pekinshuho.com/JP/2003.26/200326-world1.htm
http://www.asiaway.info/special/sp-news/nwh01-6a.htm
△ 追記1:EU憲法
欧州憲法案で合意: 大統領、外相を新設 EU首脳会議 (共同6月19日)
「ブリュッセルで開かれた欧州連合(EU)首脳会議は18日、25カ国に拡大したEUの基本法となり「大統領」「外相」の新設などを盛り込んだ欧州憲法案で最終合意に達し、閉幕した。
5月に旧共産圏の中・東欧諸国などが加盟したことで、総人口4億5000万、域内総生産(GDP)は米国に匹敵する一大政治・経済圏に発展したEUは、新憲法の下で統合の深化を目指す。
会議のもう一つの焦点で、10月に任期切れを迎えるプローディ欧州委員長の後任人事では候補者1本化に失敗、決定を先送りした。議長国アイルランドのアハーン首相は、議長国任期内の6月中に決めたいと述べた。
欧州憲法交渉では、ドイツやフランスなどの大国と、拡大に伴う発言力低下を懸念する中小国の利害が鋭く対立したが、当初案から大国側がやや歩み寄った。
今後の焦点は、全加盟国が憲法を批准し予定通り2007年中に発効できるかに移る。批准は議会承認か国民投票で行われるが、一国でも批准に失敗すると憲法は「絵に描いたもち」となる。
EUの「顔」となる「大統領」は従来の輪番議長国制に代わり首脳会議を主宰。「外相」は現在のソラナ共通外交・安全保障上級代表とパッテン欧州委員(対外問題担当)の仕事を1本化、イラク戦争で足並みの乱れを露呈した共通外交・安保政策の強化を図る。
最大の争点だった閣僚理事会の意思決定は1加盟国数の55%以上に加え、少なくとも15カ国以上が賛成2賛成国の人口がEU全体の65%以上−で成立すると規定。税制、外交、防衛分野は英国の主張通り、全会一致方式が残された。
欧州委員数は2014年まで1国1委員制で、その後加盟国数の3分の2に削減。憲法前文でのキリスト教への言及は見送られた。」
アジア共同体論者はEUを地域統合の成功例として引用するケースが多い。しかし、草案が合意されたEU憲法を見れば、EUが政治的、軍事的決定に全会一致を取り入れた以上、実態としては機能しないことは自明だ。イギリスの主張が通ったといえる。
米国に代わる外交、安保の基軸を狙った、下記「ソラナドクトリン」も、全会一致では、実現困難に直面するだろう。
「ソラナ・ドクトリン」(単独覇権主義を打ち出したアメリカの「ブッシュ・ドクトリン」に対抗させる意味の命名)とも呼ばれるこの戦略は、従来は東欧やバルカン半島までだったEUの影響圏を一気にアラブ世界からアフガニスタンまで拡大しようとする非常に野心的なものだ。そして戦略の中心を「予防的関与政策」(Preventive engagement)に置いている。これは、危機が発生しそうな最初の兆候が見えたときから即応することで、危機が拡大する前に防ごうとするもので、軍事的な戦略よりも、外交的もしくは援助的な戦略を重視するということだと読める。
http://tanakanews.com/blog/0401311438.htm
25カ国の批准が万一実現しても(英国は批准しないから不可能だが)、EUはアメリカの対抗軸には絶対なりえない。この憲法草案は妥協の産物であり、EUの「終わりの始まり」である。EUは政治的実態ではなく、経済的自由貿易圏として生き残る道は残されていると思うが。
EUが政治統合を失敗した最大の要因は、ランドパワーとシーパワーの視点を欠き、欧州の歴史的一体性を無視し、企業ニーズのみに着目し、経済指標や人口なんかを根拠に統合を進めた結果だ。「愚者は体験に学び、賢者は歴史に学ぶ」ことをしなかったからだ。このままでは、EUは身動きが取れないばかりか、長期的には人口圧力の観点からスラブ化(東欧からの流入)やイスラム化(独仏は人口の10%以上をイスラム教徒が占める!!)が進行し、西欧諸国が民族的自主性を失うことは自明だし、短期的に見ても、中国やロシアにいいように利用されるだけだ。
EUを本気で成功させようとすれば、
名称をローマにする、首都をローマに置く、大統領をカイザーと呼ぶ、憲法をラテン語で書く、版図をライン川とドナウ川の線より内側に限り、英国を除名する。ことが必要であろう。すなわち、東独を含む東欧と英国を切った、かってのローマ「帝国」(ローマ帝国はあくまで通称、本来の名称はローマであるため括弧書きとする)のコアメンバーだけで復活させるのだ。日本史の明治維新を参考にするといい。これが成功したとしても、世界帝国にはなりえず、欧州とせいぜいアフリカしか影響力を行使できないローカルパワーなのは、ローマ「帝国」と同じ。
追記1:中東情勢
私は、世界平和のため、ユダヤ人に棲家を日本が提供できればいいのではと考えてたが、現実にはもう間に合わない可能性を懸念している。
つまり、イラク戦争後の欧米での反ユダヤ感情の高まり、ネオコンの凋落、映画「パッション」を見れば分かるが、彼らを追い詰めていけば何が起こるか・・・
限定もしくは、非限定の核戦争だ。論理的帰結として。イスラエルによる、もしくはアメリカによる先制核攻撃だ。今、世界は冷戦期より核戦争のリスクは高まっている。
アメリカも、ロシアも先制核攻撃ドクトリンを採用している。この観点から、下記記事は重要だ。追い詰められたイスラエルが曖昧戦略を放棄して、核の先制使用戦略(サムソン・オプション)をとるかもしれないという意味だ。その際の標的は、ロシアの「死の手」自動報復システムかもしれない・・・
イスラエル、核兵器巡る「あいまい」戦略を見直し(日経6/18)
【カイロ=金沢浩明】イスラエル政府は核兵器の保有を「否定も肯定もしない」という現在の各政策の見直しに乗りだした。地元紙マーリブによると、このほど新しい国防政策の検討委員会を発足、1年以内に結論をまとめる。
委員会はモファズ国防相の諮問機関とし、メリドール元財務相を議長に関係省庁の高官や専門家を集めて毎週1回会合を開く。治安部隊の体制など国防戦略全体も議論の対象となる。
現政策は1960年代から。当時は主に近隣諸国からの攻撃を想定、核兵器の有無を明確にしないことが攻撃の抑止力になるとしていた。だが、最近のパレスチナの民衆蜂起やテロ活動などには抑止効果は上がっていない。同国の核開発情報を暴露し禁固刑を受けた元原子力技術者モルデハイ・バヌヌ氏が4月に釈放されたのを機に、核拡散防止条約(NPT)未加盟のイスラエルへの圧力も増している。以上
(江田島孔明、Vol.8完)
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