◯ 世界史に見られるランドパワーとシーパワーの戦略 VOL30
 江田島孔明

 今回は、ウクライナ情勢の地政学的意味の解説と、EU、ロシアの将来展望を検討してみたい。なお、私が、ユーロの将来性がないと予測するのはこの東方問題が根拠だ。
△ 新たな「鉄のカーテン」も サッチャー元英首相が警告
 【ロンドン30日共同】サッチャー元英首相は29日、ウクライナ情勢に関する声明を出し、同国に「新しい『鉄のカーテン』が下りる危険性がある」と警告。冷戦の再来を許さないよう西側社会に呼び掛けた。
 元首相は声明で「西側社会と指導者は、闘いを続けるウクライナの勇敢な民主主義者を断固支持すべきだ。圧政をはびこらせてはならない」と主張した。元首相は冷戦下の1979年からベルリンの壁崩壊直後の90年まで首相を務め、反共の指導者として知られた。
 「鉄のカーテン」は冷戦下の欧州における東西両陣営の国境線を象徴的に示す言葉で、チャーチル元英首相が初めて使った。

△ ウクライナ、分裂と流血の事態に向かっている=ロシア下院議長
 [モスクワ 30日 ロイター] ロシアのグリズロフ下院議長は、ウクライナが分裂と流血の事態に向かっているとの見方を示した。同国は、大統領選挙の開票をめぐり与野党が激しく対立している。
 先週、ヤヌコビッチ首相・ユーシェンコ元首相の両候補の仲介に参加した同議長は記者会見で、「事態は分裂か流血の方向に向かっている」と指摘。「事態が他の方向に進展することはないとみている」と語った。

△ EUにとって、東方拡大の蹉跌
 ウクライナの争乱は、ランドパワーのかかえる宿命的問題点を良く表している。それは、「ランドパワーは国境を接する周辺国の政治的、社会的影響を直接受け、地政学上のパワーバランス変化が容易に国内の分裂や内乱に結びつき、結果として国力を疲弊する」ということだ。つまり、本質的に分裂のベクトルを内包するのだ。
 民主主義や議会制度とは、古代アテネや中世の英国、近代アメリカで発達したことを見ても分かるように、本質的にはシーパワーの政治システムであり、ランドパワーにとって、異民族の政治関与、支配を排除するため、ソ連型あるいは中共型の中央集権独裁体制しかありえない。ウクライナやイラクで民主的選挙をやろうとすれば、必ず外国勢力の介入から国家分裂に繋がることは事実で証明されるだろう。
 「国家戦略は根本的に地理的条件によって規定される」というのが地政学の大命題であり、歴史を貫くランドパワーやシーパワーの法則を理解すべきだ。ナポレオンの「私に地図を見せよ、その国がどのような政策をとるか言い当ててみせる」という言葉もこのことを表している。
 つまり、その他の条件が同じならば、歴史を通じて国家がとるべき地政学戦略も、そこから得られる結果もそう大きくは違わない。これが、私が、歴史を重視し、地政学戦略を立案する理由だ。「歴史は繰り返す」といわれるのは、そのような地政学戦略を知らぬ者が国家戦略を構築し、失敗する場合に当てはまる。孫氏を読んでいたビスマルクの箴言「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」ことが必要だ。
 欧州はその歴史を通して、東方の「蛮族」の人口圧力すなわち民族大移動の脅威にさらされ続けた。古代のゲルマン人やフン族、中世のモンゴルやオスマントルコそして戦後のソビエト・・・
 欧州東部は、地勢的な防衛条件、すなわち高い山や大きな川で隔てられておらず、防衛に適していないためだ。
 では、欧州の真の地政学上の国境すなわち、攻勢終末点とはどこか。それはローマ帝国が引いたライン川とドナウ川を繋ぐ線だ。この線の東側は、支配する果実より防衛コストがよりかさむため、支配する意味がないことはローマ以来の真実なのだ。このような観点から、ウクライナの争乱は、確実に東欧(ポーランド)に波及すると予測する。
 私は、以前、本メルマガのVOL3及びVOL6(下記参照)において、EUの東方拡大がいずれ、EU分裂とロシアとの対立を生むと予測した。事態は私の予測どおりに推移している。欧州にとって、「東方」は地政学的鬼門なのだ。日本にとって、朝鮮半島がそうであるように。
 地政学的に見た場合、英国が日本、仏独が韓国、東欧は北朝鮮、ウクライナは満州と完全に一致する。中国が内部分裂した場合、核兵器をもった満州地方の政権が親日になるか、親中になるかは非常に重要だ。そう考えると、今回のウクライナ大統領選が、親米と親露に真っ二つに分断されたことの重要性が理解できるであろう。
 グルジアが既に親米政権となっており、そのためにもウクライナの帰趨は、ソ連回帰を目指すプーチン政権にとって、死活的意味をもつ。何故なら、EUと国境を接し、黒海から地中海へのアクセスを有し、5000万人のスラブ系住人と豊富な農産物を持ち、ハートランドに近い戦略的要衝という地政学的条件は、ソ連帝国復活に必要不可欠だからだ。逆に言えば、ウクライナを失えば、ソ連は、ハートランド支配権を全てアメリカに奪われてしまう。「ウクライナの奪還」はソ連にとっての、天下分け目の関が原なのだ。
 このような視点から、現時点で、大統領選挙やりなおしの結果、ウクライナが親露、親米のどちらを選択するか不明だが、可能な限り、ロシアと欧米の将来を予測してみたい。

△ EU東方拡大の問題点
 私は、ヨーロッパの歴史を貫く法則として「東方への拡大を志向した欧州の帝国は、全て破綻している。」ことを発見した。アレクサンダー、古代ローマ、ナポレオン、ヒトラー等、一つも例外はない。むしろ、欧州なかんずく、西欧の発展は、大航海時代や戦後の冷戦期を見ても、大西洋を経由した海外貿易にベクトルが向いたときに限られる。はっきりいえば、西欧は、シーパワーとして、大西洋に目を向けたときに発展し、東欧やロシアといったランドパワーに手を出したときは、全て失敗し、破綻している。これは、西欧と、東欧およびロシアの文明の質の相違が根本にある。
 さらに、「ヨーロッパ」という枠組みで東欧やロシアを含めてしまう考えは、「アジア」という枠組みで日中韓を一まとめにするのと同じ、完全に誤った考え方だ。
 真の区分は「シーパワー西欧VSランドパワーロシアそして、緩衝地帯としての東欧」なのだ。これは、「シーパワー日韓、ランドパワー中国、緩衝地帯としての北朝鮮」という、極東における戦後の枠組みと完全に一致する地政学的区分だ。
 この区分は、戦後のアデナウアーやシュミットやドゴール及びジスカールデスタンといった、西欧文明の本質を理解していた保守政治家にとって、極めて、自明の考えだったといえる。そして、「欧州統合」の基本理念は、あくまで、「仏独(西独)の和解」すなわち、「シャルルマーニュ(カール大帝)の欧州復興」にこそ核心があり、東方拡大やウクライナへの関与、トルコ加盟など、全く本来の趣旨に反する戦略的下作だ。
 シャルルマーニュの欧州の国境は、地政学的に見た場合、古代ローマ帝国が「国境」と定めたライン川とドナウ川を結ぶ線とほぼ一致する。この内側でしか、欧州の防衛はできないことを知るべきだ。トラヤヌス帝により、この線を越え、ダキア(ルーマニア)を征服した時点から、ローマは崩壊への第一歩を歩み始めた。
 EUはローマをモデルとしながら、肝心な点すなわち、地政学の視点でローマを学んでない。
 この点で、国家破滅をもたらしたナチスドイツの東方政策(Ost Politik)や大日本帝国の満州国建設以降の大東亜共栄圏構想と同じように考えればいいであろう。
 EUは何故このような戦略的下策をとったのか。EUの東欧への拡大25カ国体制は、東欧を影響下におき、フランスに対抗したいドイツと、EUを分裂、崩壊させたい英国の強力な後押しによって、ジスカールデスタンの反対を押し切りなされた。
 要するに、EU東方拡大とは、日本による日韓併合と同じくらいか、それ以上の地政学的大失策だ。日韓併合により、日本はいまだに影響を受ける民族問題を抱え、かつ、大陸の大ランドパワー中露と直接対峙するという戦略的自殺を犯したことが、第二次大戦の敗北に繋がる。この時期、半島への投資が行われ、日本人は兵隊に取られ、国内は未曾有の貧しさ不況であった上に、結果として国家破滅を招いたのみならず、現在にいたるまで民族問題を惹起している。戦後の繁栄は、半島や大陸といった不良債権を一掃でき、国内の資本投下が優先できたからだ。
 EUも同様に国内にスラブ系、イスラム系という民族問題を抱え、ロシアの思想的、経済的侵略を受けることになる。
 もっとはっきりいうと、EUなかんずくドイツは、左派政権を継続することにより、ソビエトとオスマントルコ双方の侵略を許したのだ。
 ちなみに、英国は、シーパワー戦略として、第二次大戦前にも、ポーランドを支援し、ナチスを封じ込めようとした様に、東欧を利用し大陸欧州を分裂させ、パワーバランスをはかることを国策とし、英国がEUに加盟しているのは、EUを分裂、崩壊させるためだ。そのため英国のユーロ加盟は絶対に無いことを知る必要がある。
 つまり、東方拡大において、仏独の利害は完全に対立するのだ。これは、欧州統合の基本理念からの大きな逸脱であり、私がEU分裂、ユーロの崩壊を予測するのは、この「東方政策」をめぐり仏独の対立が今後、顕在化することが確実だからだ。
 今回のウクライナ問題は最初の試金石となるだろう。推測だが、ドイツやポーランドは地政学的見地から、ウクライナへの積極的関与を主導し、フランスはそれに反対し、アメリカは自国の国益(ハートランド支配)の観点から、CIAを使って、野党候補を後押していると見る。
 重要な点として、EUなかんずくポーランドやドイツは、ウクライナへの関与を主張しながら、EUへの加盟やロシアからのウクライナの軍事的防衛には否定的という、きわめて虫のいい政策をとることだ。これでは、統一的関与など不可能であり、結局ウクライナは米ロの決戦正面となり、CIAとKGBの暗闘の舞台となっている。既にロシアの特殊部隊がキエフに送り込まれたという情報もあり、野党指導者の暗殺未遂もこの文脈で考えるべきだ。
 つまり、EUはあくまで、外野なのだ。上述の理由により、EUとして、統一的東方政策など、そもそも、不可能な話だ。
(江田島孔明、Vol.30完)


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