◯ 世界史に見られるランドパワーとシーパワーの戦略 VOL31
 江田島孔明

 今回は、今までのコラムのまとめとして、現状の国際情勢を日露戦争当時の状況と比較して考察したい。
 私は、以前から、現在は日露戦争前の状況に酷似していると考えていた。そして、その考えは確信に変わってきた。

 国家戦略とは、国家の「地理的条件」によって、根本的に規定されるというのが地政学の大前提であり、その他の条件が同じなら、歴史を通じて取るべき地政学戦略も、そこから得られる結果も大きくは違わない。よって、歴史を参考にして地政学戦略を構築する必要がある。前例としての日露戦争を以下に見てみる。

△ 日露戦争前の状況
 当時の世界は、アメリカは完全なモンロー主義で、世界の表舞台には立っておらず、イギリス帝国の覇権も相当に凋落の一途をたどり、しかも、ロシアも国内の政情不安を抱え、中東方面への進出が失敗(クリミア戦争)したことから、極東方面への進出が喫緊の課題であった。これは、イギリスをアメリカに、ロシアを中国に置き換えると、全く現状と一致する。
 何故、日露戦争が起きたかといえば、その根本的理由は大英帝国の衰退とロシアの政情不安、日清戦争の結果、清朝が衰退したことにより、極東に「力の空白」が生まれたためだ。  
 当時、日本はアジアの三流国とみなされていたため、パワーではなかった。そこで、ロシアの南下を単独では阻止できないと考えられていたため、中国利権の喪失を恐れ、対露封じ込めを図る大英帝国との利害の一致から、日英同盟締結に至る。
 反対に、ロシアに債権をもっていた独仏は、ロシアの極東進出を支援した。EUが中国に武器輸出を開始しようとしている現在と全く同じ状況だ。まさに、ランドパワー枢軸VSシーパワー連合の構図が鮮明になったのが日露戦争だ。

<参考>
△ 日露戦争の背景
http://www.ne.jp/asahi/chronicles/map/modern/haikei_nichiro.htm
・ 親ユダヤ戦争
 日露戦争にはもう一つの側面があり、帝政ロシアがユダヤ人を迫害していたため、ユダヤ系国際金融資本の反ロシア闘争という側面だ。当時、戦費調達に困っていた日本政府は高橋是清蔵相が先頭に立って、海外の銀行に資金援助してくれるよう働きかけたが、アジアの小国、日本をどこの国も相手にはしてくれなかった。
 そんな時、唯一当時のお金で2億ドルもの債券を引き受けてくれたのがアメリカにある投資商会クーン・ローブ社のヤコブ・H・シフであった。ドイツのフランクフルト出身でユダヤ人のシフは、ロシアで迫害されるユダヤ人を救うため、ユダヤ人弾圧国家であった帝政ロシアと戦う日本に同調した。更に、金融資本主導のイギリスが日英同盟締結から、情報の面及び、軍艦等の兵器供与で全面的に日本を支援したことはいうまでもない。
 結果として、日本海海戦の完全勝利もあり、講和に持ち込めたのだが、もう少し長引いていれば、陸戦では非常にやばかった。ロシアはナポレオン戦争以来、退いて敵の兵站が伸びきったところを攻撃して、勝つという退却戦術をとっており、日本との戦争でも、満州でそのような計画を立てた。
 そして、シベリア鉄道で増強した兵力でハルビンまで日本軍を吊り上げ補給戦が延びきったところで、数倍の兵力で日本を叩き潰すつもりであったのだ。アメリカによる講和の仲介はぎりぎりのタイミングでなされ、薄氷の辛勝といえる。

△ 歴史の教訓
 マルクスの言葉「歴史は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として。」
 同じ間違いを繰り返さないために、歴史に学び、教訓を得ることは重要だ。日露戦争とその後の20世紀の歴史の教訓から言えることは、
(1) 英米は極東では、直接戦闘に参加せず、日本を代理人としてランドパワーに対抗する。そのための海軍力(現代では空軍力やミサイル防衛も)の増強には協力する。余談だが、明治維新は、「日本を極東の代理人」とするため、英国国際金融資本によってなされた政権交代劇だ。
(2) その後の満州共同経営というハリマンの提案を日本がけったことが、後の太平洋戦争に繋がったように、日本が大陸に単独で利権をもつことをアメリカは許さない。
(3) 米中の接近が、日本の孤立化から極東の不安定化、さらには戦争を生む。
(4) 中国を同盟国としたアメリカ民主党の支援は全て裏切られた。その最たる例は朝鮮戦争での軍事介入。クリントン時代に中国へ供与された核やミサイル技術の中東への流出。
 要するに、「シーパワー日本は支持するが、ランドパワー日本は徹底的に潰す」という事が、アメリカの一貫した方針だ。これは、リムランドの複数国が結びつくのを阻止するというリムランド理論にのっとった戦略であり、ローマ帝国以来の分割支配(Divide and Rule)に基づいているともいえる。

△ 日本のとりうる戦略
 日露戦争とその後の歴史に学ぶならば、日本は英米シーパワーと連携しランドパワー中国を封じ込める戦略しかないと考える。
 日中友好や東アジア共同体構想は、何よりもアメリカがそれを許さないのは、歴史をみれば明らかだ。田中角栄をアメリカが潰したことや太平洋戦争が、中国問題が原因で起きたことを忘れるべきではない。
 さらに、日本の一部には中国事大主義があり、同じアジア人同士連携して欧米にあたるべきだという意見がある。
 はっきりいうが、国際戦略を考える上でこのような人種や文化(日本と華北は人種や文化も違うが、中国事大主義者は同文異種、一衣帯水などといったりする。日本と文化的同質性があるのは、稲作の原産地揚子江以南の華南、華中だ)を、基盤にすることほど危険なことはない。
 戦略は地政学を基盤に構築すべきだ。そうでなければ、何故日露戦争で英国が日本を支援し、白人のロシアを敵としたか、あるいは何故、同じゲルマン系の英独が、二度も死闘を演じたかがわからないだろう。これは、全て地政学でしか説明できない。人種や文化は無関係なのだ。
 極東の平和と安定の為に日中は友好関係を築けという論者は、20世紀の歴史と地政学が根本的に分っていない。極東の平和と安定の為に、「日米は覇権主義ランドパワーの北京政府を軍事バランスの優勢を保つことにより封じ込めるしかない」というのが20世紀の教訓から言える結論だ。
 日本史を概観しても、隋の成立に対し、独立宣言した聖徳太子、蒙古からの国書受け入れを拒否した鎌倉幕府執権北条時宗、清の成立に対し、鎖国で応えた江戸幕府と、日本国の華北政権との接し方は、既に決まっている。
 これは、華北政権は「奪い殺す」ことを本質とする獰猛なランドパワーだからだ。チベットやモンゴルやウイグルの現状を見れば、彼らの支配の本質が分かるだろう。

△ 日中熱戦の可能性
 肝心な点として、日露戦争はホットウォーとなってしまったが、既に始まってる「日中冷戦」はホットウォーとなるであろうか? 思うに、孫氏を例に取るまでも無く、直接攻撃は戦略的下策であり、「戦わずして勝つ」ことを考えるべきだ。
 これは、潜水艦領海侵犯事件ではっきりしたように、海空軍戦力で中国を圧倒する日本には、十分可能な戦略だ。イラクやベトナムのような、泥沼のゲリラ戦がありうる陸軍戦略と異なり、海空軍戦略においては、技術力やソフト力の優劣によって、事前に戦争の結果がほぼ予測できてしまうためだ。
 そして、パワーバランスにより「戦わずして勝つ」ことこそが、海空軍の本来の運用方法であり、シーパワー戦略の根幹なのだ。
 よほどの軍事独裁政権が樹立される場合を除いて、中国軍が日米台湾に対して、戦争を仕掛けることは考えられない。もしやれば、数時間で東海艦隊、南海艦隊は全滅する。このことを中国政府、軍部とも、日本政府よりは分っている。この点で、極東の小国としてしかロシアに認識されていなかった日露戦争の頃と異なる。
 日中が戦争に至ることを心配している人もいる。その危険性も全く無いわけではないが、サラミス海戦後のギリシャとペルシアや冷戦期の米ソがなぜ直接戦火を交えなかったかを考えるべきだ。
 さらに、アメリカは中国に対してイラク戦争のようなアプローチをとることは決してない。なぜなら、中国には戦争を正当化する資源がなく、かつ、イスラエルの安全保障のため、中国の直接支配が必要ではないからだ。
 要するに、日本が制海権を保持できれば、パワーバランスの観点から日中間の戦争リスクは極小化できる。逆にいえば、日本がアメリカの情報提供の下、制海権を確保できなければ戦争リスクは高まる。

△ 歴史の教訓
 極東における、戦前と戦後の最も大きなパワーバランスの変化は、アメリカが同盟相手を中国から日本に変えたことだ。そして、日本、台湾、フィリピンの防衛にアメリカがコミットすることで平和が維持された。逆に言えば、米国民主党のような中国を同盟国とする戦略は、アジアの戦争リスクを高め、結果としてアメリカも中共に裏切られるだけだということが20世紀の歴史からいえる最も重要な結論だ。民主党もいいかげん、歴史から学ぶべきだ。
 ランドパワーとの戦争は、それを避けようとしたときに発生していることは英独ミュンヘン会談を見ても分かる。逆にキューバ危機のように、戦争を辞さずという強い姿勢で臨めば、回避できる。
 必要なのは、パワーバランスと強固な意志だ。戦後の冷戦期、パックスアメリカーナ体制の下、アメリカとその同盟国間での自由貿易によって、発展した日本ではあるが、世界はそのような自由貿易を許す状況ではなくなりつつあり、あくまで、パワーバランスという視点で考える必要がある。
 つまり、「自国の軍事力でカバーできない、内陸部への投資はしない」ことが必須となる。
 すなわち、軍事と経済は一つのコインの表裏であり、それぞれがバランスする範囲で活動すべきということ。ここが認識できない評論家が多すぎる。はっきり言えば、ドルが基軸通貨でいられたのはニクソンショック以来、最強の軍事力が担保になっていたためだ。つまり、世界は自由貿易の時代からパワーバランスの時代に入ったのだ。

 よって、既にバブル崩壊がはっきりしてきた中国に対しては「冷戦時の対ソ連方式」を採用し、アメリカのサポートの下、
1、ODA即時廃止
2、資本の一斉引き上げ
3、各地方の独立運動支援
4、徹底的な軍事圧力をかけ続ける
5、これら全てを国際金融資本と意識をあわせて実施
 をセットで行うことにより、軍拡に引き釣り込み、内部崩壊させることが可能と考える。その上で、早急に環太平洋連合を樹立し、上海や香港を独立させ、北京を封じ込めていけばよい。
 そして、「奪い、殺すことを文明の本質とし、圧制支配、命令服従という人間観、世界観」しかないランドパワー北京の支配に喘ぐ上海、香港、チベット、ウイグル、内蒙古等の諸民族を解放し、「売り買いし助け合い、相互の独立を重んじる」シーパワー日本が極東の希望の光、すなわち「明けの明星」となる。それは、日本の世界に対する責任だと考える。

<参考>
 下記は、近未来のASEANとの軍事同盟樹立の布石である。環太平洋連合実現へ大きく前進した。
△ 武器輸出3原則緩和を正式決定 「全面禁止」政策を転換
 政府は10日午前、新しい「防衛計画の大綱」の閣議決定にあわせ、武器輸出3原則を緩和することを正式に決め、細田官房長官が談話の形で発表する。日米で共同技術研究をしているミサイル防衛(MD)に関する共同開発・生産を3原則の例外とするほか、他の案件についても個別に判断する。
 これまで日本は、米国への技術供与を除き武器輸出を事実上、全面禁止してきたが、この政策を転換するものだ。
 談話は、MDにかかわる輸出について「日米安全保障体制の効果的な運用に寄与し、我が国の安全保障に資する」としたうえで、「厳格な管理を行う前提で武器輸出3原則等によらないこととする」と明示した。
 日米は海上配備型MD用迎撃ミサイルの共同技術研究を進めており、日本はミサイルを保護する弾頭や弾道ミサイルを追尾する赤外線シーカーなど4分野を担当。共同研究が開発・生産段階に移行した場合、日本製部品を米国に輸出できるようにする。
 さらに(1)MD以外の米国との共同開発・生産(2)米国以外も含むテロ・海賊対策などへの支援−−の二つのケースについても「今後、国際紛争等の助長を回避するという平和国家としての基本理念に照らし、個別の案件ごとに検討の上、結論を得る」との表現で輸出に道を開いた。
 政府関係者によると、テロ・海賊対策では主に東南アジア諸国へのヘルメットや防弾チョッキ、中古艦船などの輸出を想定しているという。
(朝日12/10)  以上
(江田島孔明、Vol.31完)


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