
◯ 世界史に見られるランドパワーとシーパワーの戦略 VOL35
江田島孔明
今回は、既に始まった日中冷戦が今後どのような形をとっていくか、熱戦になることはないのかを、歴史の教訓に学びつつ、推測と思い入れを根拠に可能な限り検討したい。
△ 日中関係の歴史的背景
まず、日中関係を田中角栄による日中国交回復にさかのぼって考えると、当時と現在とでは、大きく国際情勢が異なることが分かる。最大の変化はソ連崩壊による米ソ冷戦構造の喪失(現在、この構造は復活しつつある)だ。
当時、ベトナム戦争を早期に終結させたいニクソン政権は、中ソ国境紛争を目の当たりにして、中国を西側に引き込むことで対ソ包囲網を完成させ、冷戦を有利にしようとした。
田中角栄も大筋において、この流れに乗って、日中国交回復を成し遂げたわけだが、当時としては、対ソ同盟に中国を組み込むという戦略的妥当性はあったものの、現在では、この点で日中友好の基本的な戦略条件が失われている。別の言い方をすると、「中ソが国境線を挟んで、世界最大の陸軍、核兵器を対峙させている間は、日中間は極めて友好的かつ平和的だった」のだ。
しかし、ソ連崩壊により、北方の軍事圧力が相対的に減ったため、中国の海洋進出が明確になり、ここに、日中の利害が対立することとなる。最近達成された中露の国境線画定はこのような文脈で理解するべきで、中国は後顧の憂いなく、海洋進出できることとなった。これが、尖閣や南西諸島周辺での海洋調査多発の背景。
△ 日中熱戦の可能性
日中は既に冷戦状態であるが、このまま熱戦となるであろうか。常識的に考えて、中国は国内に諸問題を多数抱え、経済発展を優先せざるを得ない立場から、潜水艦の領海侵犯事件で、彼我の海軍力が雲泥の差だということがはっきりした以上、軍事的観点からも、最大の顧客でもある日本との戦争を決断するとは考えにくい。
台湾に対しても同様に戦争を口にしているのはあくまで恫喝あるいは、国内引き締めのためのポーズであり、実際には軍事攻撃はありえないと考える。
<参考>
下記記事だが、中国は台湾攻撃の意思が無いことを表しているとみるべきだ。軍事常識として、本気で攻撃しようとすれば、その意図を秘匿して、奇襲攻撃を狙うものだからだ。例として日本の真珠湾やドイツのポーランド攻撃等。脅しをかけてくるというのは、それだけ北京が追い詰められているとみるべきだ。過剰な反応はつつしみ、冷静に対処する必要がある。恐れる必要は全くない。
2004年12月22日(水)
「李登輝氏戦争メーカーにも」中国大使、日本を批判、ビザ取り消し要求
政府は二十一日、台湾の李登輝前総統に入国査証(ビザ)を発給した。これに対し、中国の王毅駐日大使は同日午後、都内で開かれた日本経団連評議員会の会合で講演し、「(李氏は)トラブルメーカーだけではなく戦争メーカーになるかもしれない。考え直していただきたい」と述べ、ビザ発給の取り消しを求めた。続いて講演した町村信孝外相は「私人が来ることを止める理由はない」と述べ、取り消す考えはないことを強調した。日中対立は激しさを増している。
台湾独立阻止へ「反国家分裂法」審議開始…全人代
【北京=竹腰雅彦】新華社電によると、中国の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会は25日、台湾の独立阻止と平和統一を目的にした「反国家分裂法」草案の審議に入った。早ければ来年3月の全人代で採択される見通し。同法は、陳水扁総統が実施を表明している住民投票による新憲法制定など、中国が批判する台湾の「法による独立」の動きに対する対抗措置。温家宝首相が今年5月、初めて必要性に言及し、国務院(中央政府)台湾事務弁公室も「中台統一を法的手段で促進するため、真剣に検討する」としていた。
内容は明らかにされていないが、独立に当たる行為の定義や独立行為への制裁措置、統一に向けた具体的手段などを明記する見通し。中国筋は「同法により、両岸(中台)に関係する台湾でのいかなる住民投票も不可能になる」と指摘している。 (2004/12/25/20:30 読売新聞)
しかし、それはあくまで中国指導部が常識的な判断をした場合の話だ。今後、中国で軍事独裁政権が樹立される可能性も否定はできず、国家戦略とは、常に最悪の事態すなわち戦争に至るケースを想定し立案するべきであり、日中戦も想定しておかなければならないのは自明だ。
この点を考察したい。但し、現実に日中戦が発生したら米軍が安保条約に乗っ取り関与してくると考えるが、米軍の関与が無い、あるいは限定的という想定に立つ、すなわち想定上の「日中のタイマン」が発生することとする。
防衛庁も、日中が戦争にいたる具体的ケースとして、台湾、尖閣、東シナ海海洋資源の3点を挙げている。確かにこの3点で日中の利害が調整できなければ戦争を覚悟すべきであり、そのための備えは必要だ。そして、この備えを怠らないことが、結果として戦争を回避し、平和的な事態の解決をもたらすのだ。 キューバ危機を見ても分かるとおり、ランドパワーとの交渉や取引は常に銃口を向け合って行う必要がある。
△ 想定されるケース
では、具体的に日中が戦争に突入したケースを想定してみる。
まず、日中の軍事力を比較すると、海空軍については、日本が圧倒的に優勢であることは議論の余地が無い。60年代の装備が主流を占める東海艦隊や南海艦隊は海自が90機近く保有するP3C搭載のハープーンミサイルだけで全滅できるし、中国軍の潜水艦が実戦では単なる標的でしかなく、使い物にならないのは領海侵犯事件で実証された。陸軍については兵員数の上で中国が圧倒的だが、日本が半島や大陸に進駐するのでなければ直接対決するわけではないので、関係ないだろう。
最も焦点になるのは核ミサイルだ。中国は通化基地において、24基の核ミサイルを日本に向けているという。そして、日本にとっての中国軍の脅威とは、この24発の核ミサイルに限られるといえる。
日中を地政学的にシーパワーとランドパワーに分類した場合、最も重要な相違点は、その国土の縦深性だ。つまり、中国は国土が広く、沿岸部が攻撃されても、内陸部は無傷で残り継戦(過去の日中戦争の実例あり)できるが、日本の場合そうはいかないということだ。
これは、例えてみれば、イスラエルとアラブの違いに相当する。イスラエルとアラブの戦争を見れば分かるが、ほとんどイスラエルの先制攻撃で開始されている。これは、イスラエルの国土に縦深性が無いためおだ。例外は1973年の第四次中東戦争であり、この時、シリアとエジプトの奇襲攻撃からイスラエルは滅亡の危機に立った。ギリギリのタイミングでなされたアメリカの介入とソ連介入の危険から、核戦争の一歩手前で停戦となった。
1973年の戦争中にイスラエルは、核兵器の使用をちらつかせて、イスラエルに大量の軍事物資を空輸させるようヘンリー・キッシンジャーとリチャード・ニクソン大統領に迫った。当時の駐米イスラエル大使シムチャ・ディニッツは次のように語ったと言われている:「もしイスラエルへの大量物資の空輸が即座に開始されなければ、アメリカは約束を破ることになると私は理解しています…そうなれば我々はきわめて深刻な結論を出さねばならなくなるでしょう…」
イスラエルの戦訓に学ぶなら、日中に戦争の機運が高まれば、日本は奇襲的に先制攻撃を通化のミサイル基地に対して行うしか選択は無いことになる。そして、そのための手段は
1、F2攻撃機(戦闘行動半径 830km)とF15戦闘機を空中給油を繰り返して用いる
2、米国より、トマホークを導入し、艦船もしくは航空機より発射する
3、ミサイル防衛システム導入
4、核ミサイルを保有し、抑止力とする
の4つの選択しかないだろう。
短時間に可能なオプションは1.と2.であり、3.はアメリカの要求で導入が決定されたが、効果に疑問がある上に、かなりの時間とコストがかかる。4.は政治的なリスクが伴い、検討課題ではあっても、現実的には、1.2.の併用に落ち着くのではないか。
△ 中国の核戦力
肝心な点として、中国の核ミサイルは過去10年近く核実験を行っていないため、その信頼性に大きな疑問がある上に、全て地上発射であり、衛星を通じてその位置が特定できるため、先制攻撃で無力化できるが、潜水艦発射SLBMをもたれたらそうはいかないということだ。発射位置を特定できないSLBMを先制攻撃で撃破することはできない。
つまり、SLBMに対抗するには、自然に4.核ミサイルを保有し、抑止力とするしかないのだ。正に米ソ冷戦期の相互確証破壊(MAD(Mutual Assured Destruction)のことであり、冷戦期に米ソで採られた核戦略である。
米ソともに相手の第一撃に生き残り、相手を確実に破壊しうる第二撃能力を持つことによって、相互に核兵器を使用できない状態とした。そのために、防衛兵器を制限する必要も認められ、ABM条約が締結された。
第二撃能力は主としてSLBMによって維持されるSLBMは、潜水艦発射型の弾道ミサイルであり、射程に特に定義はない。潜水艦は隠密性を有しているため、これに搭載した核ミサイルは核戦争が起きて、先にICBM発射基地を破壊されても、報復攻撃を実施できる「第2撃能力」としての効果を発揮する。
日中が入ることを意味する。そして、私は長期的には、この可能性が最も高いと見る。そして、長期的に見て、日本が1〜4の全てを備えた場合、日中間の戦争は抑止できると考える。
それでも何かの拍子に戦機が高まり、戦端が開かれそうになったら、先制攻撃にて中国の核戦力を無力化する以外にオプションは無い。そのことを肝に銘じるべきだ。
<参考>
△ 毎日新聞3月24日記事
防衛庁:敵基地攻撃を提唱 シンクタンクが戦略概観報告書防衛庁のシンクタンク、防衛研究所は24日、年次報告書「東アジア戦略概観2004」を発表した。
北朝鮮による弾道ミサイル攻撃を想定したうえで、敵基地への攻撃能力を保持する重要性を指摘している。専守防衛に徹してきた防衛政策の質的転換を政府に促す狙いがあるとみられる。
概観は、大量破壊兵器や弾道ミサイルの攻撃に対して、日本が依存してきた「米国の報復的抑止力」が万能ではないと指摘。相手国が弾道ミサイル攻撃に着手した場合には、日本に被害が発生していなくても「法理上、武力を行使して相手国のミサイル基地を破壊することができる」と結論づけている。(以下略) 次号に続く
(江田島孔明、Vol.35完)
(注) 目次の頁へ戻るには、左上の「戻る」を押して(クリックして)下さい。